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V.E.フランクル「夜と霧」(新版)の心に響いたフレーズ [読書感想]

この歳になって、初めてこの本を紐といた。
まず今まで読まなかった理由:読むのが怖かった。何かすごく深くて暗くて苦しいところに引きずり込まれそうだったので。
全くの杞憂でした。そして、敢えて新版を手にしました。

でも、今の歳になって読めて良かったです。そして、特に心に響いたのは、「生きる意味を問う」の中のパラグラフ。

「わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、・・・」

これ、すごい文章です。この書き方、何ていうんだっけ?「AがBではなく、BがAである」という言い方。弁証法的な言い方だったか?意味のレベルが、階層が、ひとつ確実に上がってます。そして、

「生きることは日々、そして時々刻々、問いかけてくる。わたしたちはその問いに答えを迫られている。考え込んだり言辞を弄することによってではなく、ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない。」

そうだったんだ。知らなかった。そして、この人たちは、あの極限の状況でこれを求めて苦悩し、もがき続けていたかと思うと言葉が出ません。

もうひとつついでに書くと、人間模様的内容としては大岡昇平の「俘虜記」を思い出させます。置かれている立場、状況は全然違いますが。
それと、「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」の感動ともまた別のものだったことも書いておきます。
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「看取り先生の遺言 がんで安らかな最期を迎えるために」を読んで [読書感想]

この医師のがん闘病の話かと思わせながら、実は末期がんの患者の最期の過ごし方、そして家族との過ごし方を今までにない視点、方法論で紹介している本です。
私は特に「お迎え」の話が気に入りました。自分の両親ががんであるということも重なって、自分もいずれはこの道を歩むことになると思うと、この本に書かれているいろいろなケースや逸話はものすごく心に響くし、もし、こうした環境で自分が最期を過ごすことができれば最高に愉快です。医療や病院にほどほど頼りながらも、家で愉快に、死ねればこんな素敵なことはないと、つくづく思います。
「幽霊」を見たら、人に話そう。「お迎え」が来たら、ひるむ家族に申し訳ないが、ちゃんと話そう。
これは、おそらくこの長い長い日本の歴史の中で培われた一種の文化だと思います。
タグ:看取り がん
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山本周五郎 「虚空遍歴」を読んで [読書感想]

まず、読み手にとって、この小説は二重の「構造」になっているように感じます。
筋としては芸の道を極端にまで究めようとする男のひたむきな思いとその行動が緻密に描かれています。いつも周五郎の短編などで感じる明るさはほぼ味わえませんが、にも関わらず最後まで読むのをやめることができません。初めは主人公の思いに大きく共感していても、最後に向かってだんだん怪しくなり、ぐらつき、ラストでは何か放り出されるような気持ちになってしまいます。
さらに、登場する女性は、しっかり性格が描かれ、リアルな存在を感じさせるものの、逆に彼の心の中をそのまま反映しているだけの「幻」のような妄想上の存在と言ってもいいような感じを受けます。そのようなノンフィクションの話しがあったと思いますが、特に今回「独白」として合間合間に入る話しは全体の構成を引き締める効果があるだけに登場する女性たちの立ち居、ふるまいは印象的です。

もう一つの「構造」としては、この小説を読んでいる自分の生き様に思いをはせてしまう感じ方です
半世紀も生きた人間として自分を振り返ってみても、うまく捉えどことがない人生を歩んできた事実を前にすると、この主人公のように物事を究めるという生き方、その極端までの思い込みは、一体何なんだと。自分ははたして何を究めようとして、何を夢見て生きてきたのかと。落ち着きのようもない感じが、頭の中で行ったり来たりします。内田樹は「『気分良く死ぬために、私は今何をなすべきか?』という問いをつねに自分に向け、あらゆる判断に際して、そのことを判断基準にする人がいたとしたら、その人はずいぶんと穏やかでフレンドリーで思索的な人物であるはずだ」と表現されています。ラストに向けて話しは暗くなっていくようですが、そこには明確には書かれていませんが、主人公は実際に何がなされるかは関係なく、自分の心の中で一つずつ事を片付けていく過程を丁寧に追って行ったような気がします。そして、最後にすべてを昇華させて逝く。死んだあと無縁仏になろうとも、野原の石ころの下に埋葬されようとも。そして仕事も、名前もすべて消えうせる。

最後に、蛇足ですが、構成上の物足りなさを一つだけ挙げてみたいです。それは、彼がなぜそこまで浄瑠璃に入れ込むのか、そもそもなぜ唄を歌いだしたのか、好きになったのかが良くわからかった点です。そもそも武士の家に生まれた人間が一体何故その方向に気持ちが傾いて行ったのかつかみにくいところがありました。こうした心変わり等は自明なのかもしれませんが、ひょっとしたら「武士」の位置づけの捉え方が、周五郎と私(もしくは世代が次に移ってからの人間)の間で理解に大きく食い違いがあるのかもしれません。こうしたことは、他の時代小説を呼んでいる時も、よく感じることですが、この後も「武士」がいた江戸時代からはさらに離れていくわけで、ある種「自明」な事実もしっかり解説をしないと通じない事がますます出てくるのかもしれません。
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浅田次郎さんの日経朝刊連載小説「黒書院の六兵衛」への期待 [読書感想]

今月から連載が始まったこの小説。江戸末期からの明治時代を今までとはちょっと違った観点から描こうとしていて、かなり期待できそう。今日までで21回だが、入りとつかみはとても興味深く、これからの面白い展開を予感させるものになっている。
特に江戸城の無血開城の翌日(?)から、しかも、その江戸城のど真ん中から物語が始まるところは、一気に引き込まれた。一体ここで何が起こるのか。ホントに楽しみ。

2013/3/6
で、いよいよラストに向けてまっしぐらか?隼人頑張れ!
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